「・・・・・・」
「・・・・・・」
目覚めた夏侯惇は、一向に復帰させてもらえないでいた。
黙ってこちらを見つめ続けてくる呂布の視線に、困惑の表情を浮かべる。
「・・・なぁ・・・」
「何だ」
遠慮がちに切り出す夏侯惇に、呂布は間髪入れずに返事をした。
「・・・いつまで俺はここにいればいいんだ?」
「傷が癒えるまでだ」
当然だろう、と言わんばかりの返答。
「・・・もう癒えたと思うんだが」
「医者の指示がなければ、ここから出さん」
「・・・・・・」
人手不足も甚だしいこの軍の、その頭がいつまでも臥せっていてはどうしようもない。
多分太史慈が死ぬほど大変な目に遭っているだろうから、夏侯惇はできるだけ早く復帰したいと思っていた。
「もういいんじゃないか?そろそろ・・・」
片目を失ったときよりも更に長い時間を療養に費やしている気がする。
戦に出せとは言わないが、それでもそろそろ起き上がって何かがしたい。
「駄目だと言っている。どうしてもと言うなら、この俺を倒してから行け」
「・・・無理だろう、それは」
いろいろな矛盾を感じたが、そこは呂布の言ということで、深く考えないことにする。
あまりの呂布の頑なさに、ついに夏侯惇は脱出を諦めた。
「・・・どうしてお前、ずっとそこに居るんだ」
夏侯惇はずっと気になっていたことを聞いた。
戟まで持ち込んで、呂布は、夏侯惇が目覚めるずっと前から、じっと見張り続けている。
「・・・・・・知らん」
呂布は不機嫌に眉根を寄せて、顔を背けた。
「知らんって・・・」
夏侯惇が呆れて目を瞬かせていると、呂布の消え入るような声が聞こえた。
「・・・・・・気になるからだ・・・」
「何がだ?」
『貴様の容態に決まっている!』
そんな風にはっきりと言ってしまうには、未だ勇気に欠く。
言ったとしても、多分夏侯惇は呆然とするだけだろう。
呂布は言葉を詰まらせて、半身を起こしていた夏侯惇の肩を押さえつけて寝台に寝かせた。
「とにかくお前は寝ていろ!寝て、早く治せ!」
「・・・お前・・・俺が一体一日何時間寝かされてると思って・・・」
呂布は、不満げな夏侯惇に鼻で笑った。
「眠れんのなら、医者から眠り薬でももらってきてやる」
「いや、遠慮しておく・・・。あれは頭が痛くなるし」
「だったら大人しくしておくことだ。怪しいヤツが来たら、俺が一突きにしてやるから安心していろ」
左手に持った戟の柄で、床をガツンと鳴らした。
「・・・それはありがたいが・・・」
「何だ?」
「俺は、太史慈のことが心配でな・・・。
あいつ、俺の抜けた穴を一人で埋めているのだろう?
あまり長く続かせると、倒れるんじゃないかと・・・」
「・・・・・・」
そんなことは思い及びもしなかったという顔で、呂布は固まってしまった。
多忙の極みの中にあった、太史慈の姿が脳裏に浮かぶ。
「・・・・・・少し待っていろ」
のっそりと立ち上がると、呂布は部屋を出て行った。
扉の外で護衛の兵を、しっかり見張っていろと、脅す呂布の声が聞こえる。
「・・・何をする気だ?」
夏侯惇が首を傾げていると、しばらくの後、呂布が戻ってきた。
竹巻の山を抱えた文官と、太史慈を連れて。
「ここでやらせればいいだろう。お前が必要なときにはあいつらに手を貸してやれる。
医者も、それならば良いと言っていた」
呂布は自慢げに言った。
「・・・すまない、夏侯惇殿。
傷が癒えきっていない貴殿の前にこんなものを持って来るのは、心苦しいのだが・・・」
居心地悪そうにしている太史慈に、夏侯惇は笑いかける。
「いや、全て俺の不注意から始まったことだ。謝るのは俺の方だ。
それに、もうほとんど恢復しているしな」
「・・・貴様らはさっさと仕事を始めろ。どうしても必要なとき以外は夏侯惇を頼るな」
呂布は無意識のうちに、夏侯惇の笑みを向けられた太史慈に嫉妬して、憮然として言い放った。
「わかっている」
太史慈は苦笑して、二人から少し離れたところに竹巻を広げた。
いい人と5題:だって、放っておけない
放っておけない人がいっぱい。
お人よし国家と化してます。
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