無双5えんぱねた

〜しょうもないデレ惇〜



           おるすばん



 
   
   














「…また留守番か」

明日の出陣に向けて身支度を整える曹操の横、端座する夏侯惇が恨めしげに呟いた。

「うむ…防備は頼んだぞ」

曹操は手を止めるでもなく、軽い調子で返した。

「………」

俯く夏侯惇を蝋燭が照らしている。
その表情を器用に盗み見ながら、曹操は口元でニヤニヤと笑った。

喜怒哀楽どの表情も漏れなく最高にかわいいが、む〜っと口をつぐんで言いたいことを飲み込む、この顔。

かあわいい〜…っ

これこそ傾国、あの曹操をしてこの体たらく。
否、曹操であるが故にこそ、と言うべきか。

ともかくも、夏侯惇の愛らしい不満は曹操の掌の上だった。もちろん原因はわかっている。

ここ最近ずーーーっと、夏侯惇を戦に出していない。


「…そんなに俺…足手まといか…?」

不満、というよりも哀しそうな声音だった。

「何を言う、そのようなことはない」

気づかぬフリで答えれば、夏侯惇はますます声の調子を落とすばかり。

「…だってお前、初めに2度ほど戦に出て以来…ずっと留守番ばかりで…」

「理由があるのだ。それに、守りとて大切な役目であろうに」

「理由って何だよ」

「今は話せぬ」

「〜〜」

またしても口を結んで夏侯惇は不満を飲み込んだ。

こんな風に言われては諦めるしかない。
だが、納得できたわけではなかった。

「役に立てないのなら…初めから俺なんか置いていけばよかったのに」

以前、曹操が自分を連れて行くと言ってくれたときのことを思い出した。

「俺が行きたいと言ったから無理して入れてくれたんだろう?
 …やっぱりあんなこといわなければ良かった」

目の前で泣いたりされれば、この従兄は絶対自分を見捨てたりはできない。
それがわかっていながら涙を抑えられなかったのが、曹操に申し訳なかった。

「元譲だけは初めから決まっていた、そう言ったはずだぞ」

「いいよ、お前は優しいからそう言ってくれただけなんだ、どうせ」

「……」

ものすごくいじけている。

項垂れて半眼、唇を少し突き出したそのいじけ方までかわいいが、今日は別にいじめようと思っていたわけではない。
本当に理由があって、夏侯惇を連れて行くわけには行かないだけだ。

ここで曹操は、夏侯惇の機嫌取りに一計を案じた。

「…ではな、元譲。そなたに一つ任務を授けることにしよう」

「え?」

面を上げて、夏侯惇が目をぱちぱちと瞬かせた。

「書簡の輸送だ。…わしの記した極秘書類を、ある軍の人間に届けて欲しい」

物々しげに告げると、夏侯惇が少々畏まった様子で頷いた。

「承知した」

「気をつけよ。敵に狙われたらば一目散に走れ。無事に届けることこそ肝要と心得よ」

「ああ。…でも、孟徳」

「どうした?」

「いや、その、贅沢を言うわけではないんだが…今、うちの軍には駄馬しかいなくて…だな。
 もし敵軍に追われたとして…逃げ切れる足ではない…と思うんだが…」

そういえばそうだった。
とある目的のために軍資金を貯めに貯めていたため、軍にはろくな馬がいない。
しかし、かわいい従弟をお使いに送り込む以上、安心安全を期しておきたい、というのが兄心だ。

「よし、わかった。…元譲、これで馬を調達して来い!」

ごそごそと箪笥をあさって出てきたのは、曹孟徳のへそくりだ。
さすがに多額。受け取った夏侯惇は、その重さに焦って返そうとする。

「いやいや!孟徳、こんなに渡されても…」

「それで買えるだけの最高に足の速い馬を買って来い。密書にはそれだけの価値がある」

「そ、そうなのか?」

「無論だ。でなくば、わざわざ届けよなどとは言わぬ。さて元譲。これで問題なく任務を果たせそうか?」

微笑んで見せると、困ったような顔をしていた夏侯惇も仕方なく頷いた。

「おう。…必ず無事に届ける」

「頼んだぞ」








後日、戦地。

「ねー殿ぉー」

「何だ、妙才」

「どうして惇兄を戦に出さねぇんですか?今日も来てねぇし…」

「妙才よ…考えてもみよ」

「へ?」

「此度の敵は張遼軍」

「はい」

「前回は子桓の軍だった」

「そうでしたねぇ」

「次はおそらく劉備と当たることになる」

「そうだけど…それがどーかしたんですか?」

「考えてもみよ!もしも、もしもだぞ?」

「…はい」

「起こり得ぬとは思うが、もしも万が一にでも、元譲が捕縛などされたりすれば…!
 奴ら下種どもに、一体どんな目に遭わされるか…!」

「…どんな目?」

「張遼など特に、元譲欲しさに攻め込んできたに決まっておる!
 捕虜の立場では抗えぬ…あのかわいい元譲にあんなことや○○なことを強要するに違いない…!!」

「………」

「そのようなことはあってはならない!!!
 ゆえに、元譲を戦地に立たせるには今しばらくの猶予が要るのだ!」

「…でも殿、そしたらずっと武勲入らないから、惇兄強くなれないし、意味ないんじゃ…」

「そのために金を貯めておるのであろうが。とりあえず装備を揃えれば少しは安心できるからな」


  ――あ、ダメだこの軍…。


折角の頭脳をどうしようもないことに使う主君兼従兄を見て、夏侯淵の士気がガタリと落ちた。















 



多分密書も本当は全然いらないヤツで、届けるルートも安全なのをリサーチ済み・・・に違いないヽ(=´▽`=)ノ


 

2011/03/08


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送