無双5えんぱねた

〜しょうもないデレ惇〜



           ここにいたい



 
   
   
















「・・・」

恐れていた日が来てしまった。

夏侯惇の視線の先、少し離れた場所に、先の戦で捕らえた軍神の姿。

「孟徳・・・」

隣に立つ曹操を呼ぶ声は小さく、夏侯惇の内に爆発せんばかりになっている不安のほどを表した。

勿論それを聞き逃すはずのない曹操は、気づかれないようにほんの少しだけ口角を上げる。

「何だ?」

「・・・いや・・・」

ふいっとそらされた瞳を追い詰めるように、曹操は問いかける。

「どうしたのだ。言いたいことがあるのなら言わぬか」

「う・・・その、な・・・。関羽は・・・どうする気だ?」

ここぞ、とばかりに曹操は夏侯惇の正面に回りこみ、思案する仕草を見せ付けた。

「どうする、か。放逐か、登用か…迷いどころだな」

「・・・・・・」

前に曹操は言っていた。

関羽のために元譲を放逐することはない、と。

けれど、夏侯惇は全く安心してはいなかった。

曹操の考えが変化している可能性は大いにある。
あのときと今では状況が違う。

そして何より。
まっっったく戦に出してもらっていない自分と、劉備軍にてほぼ出ずっぱりだった関羽とでは、相対すれば消し飛ぶ程度にパラメータの差が著しい。

出陣を願っても、曹操こそが頑なに拒否した結果がこれなので、夏侯惇が自分を責める必要はない・・・
はずだが。
それでも心に募るのは、申し訳なさであり、やるせなさであり、一種の罪悪感だった。

今ここで曹操に、「お前なんかいらない」と言われたら、去る覚悟は一応ある。
縛られたままの関羽をぼっこぼこにしてやってから、きっぱりと全てを捨てて放浪の旅に出ようと思う。

けれども本心は。

まだここにいたい・・・!
去るならばせめて今一度、曹操の役に立ってからにしたい!

そう思わずにはいられない。

何を考えているのか決して表情に出さない従兄を説得する術など、智に疎い己にあるべくもないが…
ただに同情を引くも良しとはできない夏侯惇は、ぎゅっと潰されそうになっている胸の内より、どうにか言葉を搾り出した。

「…孟徳」

「ん?」

「…俺は、関羽より役に立てる…とは、今は言い切れない…が。
 でも…」

「…」

「お前の為にだけ動く、というか…お前の為に命を張れる、というところだけは、今の俺でもあいつに勝てる」

曹操のために全てを捧げきることができる。
この一点のみが己の強みだ。
情けないとも思うが、こればかりは真実に違いなかった。

「ほう…」

曹操が目を細めて、瞳に鋭い光を乗せた。

…というのは勿論演技で、実際の曹操の頭の中は

『元譲かわいいなぁぁぁぁぁ、どうやって困らせようかなぁぁぁぁぁ』

この思考一色だった。

そんなことを知るわけもない夏侯惇は、ますます心細げに肩をすくめる。

「だがな、元譲。関羽ほどの剛の者があれば、そもそも、そのような危険な局面に遭うこともなくなろう」
 
「……」

正論だった。

そして曹操はやはり、関羽を選ぶのだ。

夏侯淵と曹仁は順調に力を蓄えて、この軍を支えるに不可欠な両将として君臨している。

今の自分の能力では、たとえ全身全霊を賭したとして、曹操を救うための時間稼ぎさえままならない。
専ら留守役を任されている己が出て行くのが順当だ。これも理解している。

身を引くのが曹操のためだ。

それもわかっている。

でも。

「……そうだな。…なら、俺が、出て行くよ」

涙が零れるのは、止められなかった。

また曹操を情で煩わせるようなことはしたくない。
そう思って必死に顔を隠そうと腕を上げるも、曹操に掴まれてしまった。

「元譲」

「やめろ、放してくれっ」

「またか…?」

先ほどまでの冷めた表情を引っ込めて、曹操は暖かな微苦笑を浮かべていた。

「違う、これは…!」

「違わぬだろう」

手袋に覆われた指先が目元に触れて、溜まった涙を吸い落とした。

「泣くほど嫌なら、素直に言えと前にも言ったはずだぞ、元譲」

「〜〜俺も言ったはずだ!お前が自分で役に立つと思うやつを選べって…!」

「それが関羽でも、か?」

「関羽でも…お前が俺なんかより使えると思うなら、選べばいいだろっ
 …俺は勝手に出てくから、放っといてくれ!」

曹操の下を離れて…?
どこに行けばいいのか…?

宛てなどない。
遠くから、曹操のことを見守るくらいしか思いつかない。

曹操のいない暮らしなんて。
何の価値もないそこへ赴く決意を固めようとすればするほどに涙が落ちる。

目の前の従兄の顔は優しい。触れる手まで優しい。
曹操は、泣いている自分にはいつでも優しかった。

「…元譲、そなた、少しはわしを信じてみたらどうだ?」

くすくすと笑みを含んだ声を落とされて、夏侯惇は閉じていた隻眼を薄く開いた。

「覚えてないか?わしは前に、もう一つ言ったのだが。
 …関羽が来ても、元譲を手放すようなことは絶対にしないと」

夏侯惇の腕を掴んでいる曹操の手に、力が込められた。
この腕は放さない。暗にそう伝えてみる。

「…あやつは劉備のところに送り返すが、その代わりに存分に利用させてもらう。
 まずは同盟、それから身代金だな」

「…いいのか、孟徳…?」

ほんの少しうれしそうに、それ以上に申し訳なさそうに、夏侯惇は曹操を見つめた。

「良い。我が軍が拡大し、将を増やす余裕が生まれてから、また攻め獲るだけの話だ」

よしよし、と肩に抱き込んだ夏侯惇の頭を撫ぜてやる。


次はどうやってかわいい元譲を見ようか。


夏侯惇を泣かせることに躊躇がなくなってきている曹操は、次なる作戦に思いを馳せて不気味に頬を緩ませた。

















 





惇兄泣かせ隊。

幼児並みの頭脳の惇・・・

ていうかこれを操惇と言い張るところが・・・いのとつちのとクオリティですな・・・


エンパねたですが、エンパのシステムとか深いことは考えずにごらんください(;´∀`)


 

2011/03/23


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