無双5えんぱねた
〜しょうもないデレ惇〜
たびだち
周囲の勢力との戦の後。
曹操は必ず、捕らえた敵方の総大将にただ一人で会見する。
そして決まって、何の咎めも与えずに釈放してしまう。
だから未だに曹操の支配地域は初めとほとんど変わらない。
夏侯淵も曹仁も不思議に思いつつも、もとより奇行だらけのこの主君に何かを意見する気も、質問する気も起こらなかった。
もう一つ不思議なことといえば、密使の往来が異常なほどに頻繁だった。
一体何を企んでいるのか。
受け取った書を見る曹操の笑みが毎度毎度、奸雄に足る邪悪さで…こちらについても、黙って見なかったことにする二人だった。
夏侯惇が得物(曹操の投資によってLv.Max)を振るう背後、木陰より視線を向ける男。
(わしの)元譲大丈夫かなぁ・・・
ハラハラと見守る曹操は総大将のはずなのに、本陣を空けて従弟の心配に一生懸命だ。
暫くして、その過保護な行動が実を結ぶ瞬間が来た。
夏侯惇が敵将と対峙する場へと新たな敵将が迫って来ているのを発見
…するや否や飛び出していく曹操の姿は、矢のごとくだった。
「え、孟徳?!」
その姿を夏侯惇が隻眼で捉えた瞬間には、敵将は二体とも地に伏していた。
何がわかったか把握できないまま、突然現れた従兄を見れば。
「…元譲。怪我はないか?」
向けられたのはいつもの微笑。
「大丈夫だ。…ごめんな、孟徳」
答えつつも、乙女に劣らぬ純粋さで曹操を敬愛する夏侯惇の胸はきゅーんと高鳴り。
「そうか。何度も言うが、無理だけはするなよ」
伸ばされた曹操の手が頬に触れれば、耳までを赤くして頷くしかできない。
曹操の涙ぐましいまでの努力により、結局、夏侯惇は一度も危機に瀕することなく成長し、まずは誰が相手となろうと不安なく戦えるようになった。
ようやく準備が整った。
ここからは、正しく心を鬼にして…計画の仕上げとかかるだけ、だった。
「再び劉備を攻めようと思うのだ」
執務室に夏侯惇と二人。
曹操が切り出した。
「劉備を?…なぜ?」
「やはり、諦められなくてな」
「何を?」
「わからぬか?」
「え…えーと」
劉備…といえば、夏侯惇の頭にすぐに浮かぶのは…大大大っ嫌いな一人の男。
「……関羽か…?」
名前を口にすれば、ここ暫くは忘れていた、胸の痛みが蘇ってきた。
一度捕縛したときは、曹操はまたいつか手に入れれば良いといっていた。
「そうだ」
「で、でも孟徳。今は俺も強くなったし、あんなヤツいなくたって…」
領土が広がっていない以上、将の枠は空いていない。
関羽を手に入れるということは…とりもなおさず、誰かが軍を抜けねばならぬ、ということでもあった。
「いや、戦力として必要であるという意味ではない」
「え?」
「わしはな…関雲長という男そのものが欲しいのだ。今になって、わかった」
夏侯惇が絶句した。
気にしない風で曹操は続ける。
「我が傍に置くべきは、あの男を置いて他にはおらぬ」
その言葉に心底から傷ついた様子の夏侯惇は、力ない声で尋ねる。
「…どこがだ?」
「何だ?」
「あいつのどこが、お前にそう思わせるんだ…?」
「全て、であろうな」
澱みなく告げる声。
「…俺では不足と言うのだな」
決定的な質問をぶつければ、曹操はいつもと変わらぬ笑みで。
「ああ、不足だ」
こんなにも無慈悲な答え。
けれど、それは愛する従兄の声に相違なく。
何も言えない夏侯惇は背を向ける。
「…わかった」
震える声ばかりは隠せずに、部屋を出た。
翌朝。
”たびにでます。さがさないでください
夏侯元譲”
という書置きを残して、夏侯惇は曹操の下を静かに去った。
曹操に、『傍に置くべき』と言われる男になるという…固い固い決意を胸に。
朝5:00からおきてでこんなん書いてた自分に驚愕
2011/04/15
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