無双5えんぱねた

〜しょうもないデレ惇〜



           さいかい



 
   
   











「…それで、元譲。わしをどうする?」


夏侯惇が帰ってきた。

…というわけではなかった。


曹操に必要とされる人間になるために旅に出ていた、はずだったのだが…
道中で諸々に巻き込まれてなんやかんやで旗揚げすることになってしまい、
ここにいたる。

ここ、とは何か。


「…うぅ…」


夏侯惇は涙目だった。手には剣。

正座する曹操を見下ろしている。

久しぶりに見る従兄。本当ならば、うれしくて仕方がないはずなのだが。



旗揚げして、暫くの、今。

何がどうなってこうなったのか。

まさか曹操の軍と戦になって…しかも、その頭を捕らえてしまうとは。


「斬るか?」

曹操の目線が得物を捉える。
夏侯惇は首をぶんぶんと左右に振った。

「そんなこと、しない!」

「ふむ…では、どうする?」

「…どうしよう」

「お前がわしを破ったのだぞ、何を悩んで居るのだ」

苛立ちを含んだ声にビクリと萎縮する。

あわあわとしながら自分も膝をついて曹操の顔を見つめ、夏侯惇は懸命に言い訳を始めた。

「ち、違うんだ。その、俺は…全然お前と戦なんかするつもりはなかったんだが…」

「どういうことだ…?」

「というか、そもそも、旗揚げだってする気なんかなかったんだ。

 …出て行ってすぐのとき、山中で迷ってたら山賊に遭ってな…その中に、今回のきっかけになった甘寧がいてな…」






――身包み全部おいてけやー!!

…と叢から勢いよく出て行った甘寧が見たのは、このときも涙目になっていた夏侯惇だった。

山賊に遭ってしまったことに慌てる余裕すらなく、半分閉じる潤んだ隻眼で甘寧を見るだけだ。

「お、おいお前…どうしたんだ?」

大の男のそんな様子に、思わず甘寧はそう声をかけてしまう。

「…迷った」

「迷ったぁ…?」

「…俺、今、何も持ってないぞ。もう三日近く何も食べてないし…」

力なくぽつぽつと零される言葉に、根はイイヤツである甘寧は同情の心を動かされてしまった。

「だ、大丈夫か?」

「……」

「…お前、さぁ。何も食うモンねぇんなら、とりあえず俺らの仲間になんねぇか?
 そうすりゃ、少しは飯を分けてやってもいいぜ…?」

食糧も行く宛てもない夏侯惇は黙ってコクンと頷いた。






「何でこんなトコ歩いてたんだ?」

分けてもらった食糧を食べる夏侯惇の横に座って、甘寧が尋ねる。

「…たまたまこっちに来たから」

「あ?どっかへ行こうと思ってたワケじゃねえのか?」

頷けば、甘寧はますます不思議だというように首を傾げた。

「ふーん…放浪の旅ってヤツかよ?」

「…まあな」

「前はどこにいたんだ?」

「前は…ずっと、曹操軍にいた」

「へー。で、辞めてきたのか」

「辞めた、ワケじゃない。…出て行かないといけなかったんだ」

「辞めさせられたのか?」

「違う。…俺がいたら、孟徳の邪魔になるから…」

また隻眼の潤みが増した。

「邪魔になる?」

「…傍に置くのは、俺ではない男がいい…」


 ――関雲長という男そのものが欲しいのだ。

 ――我が傍に置くべきは、あの男を置いて他にはおらぬ。


曹操の言葉を思い出せば、いつでも涙が零れた。

「…お前では不足だと、言われた」

「はぁ?!またそりゃ、ヒデェ君主だな!」

聞いた甘寧が憤った。

「他のヤツがいいから出てけってか?一度抱き込んだら最後まで面倒みねぇとダメだろ!!」

「いや、でも孟徳は…」

「お前、悔しくねぇのかよ?!」

「悔しく…?」

「悔しいんだろ?追い出されたことがよ!」

「い、いや…俺は、別に…」

「そういう野郎はぶっ倒して見返してやんのが一番だ!!
 俺が手伝ってやっからよ、一発殴りこみにいってやろうぜ!!」

「え?いや、待ってくれ」

「おい、野郎共!!!久々に戦に行くぜ!!山を降りる準備を始めろ!!」

オーーーー!!!

くるりと振り返って甘寧が一声。
そしてそれに呼応する数十人の山賊の雄叫び。

一斉に動き出した血気盛んな男たちを止める術を、夏侯惇は持っていなかった。








「その後もずっと必死で止めたし説明もしたんだがな、全然聞いてくれなくて…
 しかも、こっちに向かってくる途中で勝手にたくさんのヤツらに声かけて、どんどん仲間が増えてって…
 気付いたら、こんな大軍になってて…」

「…ほう。で、その甘寧が勝手に攻め入って、わしらを降したというわけか」

「……その通りだ…」

申し訳なさそうに、夏侯惇がちらりと曹操の顔色を窺う。

「しかしな…もう、元には戻れん。我が領土は全てお前のもの、わしもまた、お前のものとなったわけだ。
 どうするかは、お前が決めることだ」

「俺のもの…?」

「さあ元譲。今決めろ。曹孟徳を斬るか、放逐か、それともお前の配下とするか」

うっ、と息を詰まらせて夏侯惇がうつむく。


曹操のことを、自分が決める?

今まで、ただの一度もそんな局面に立たされたことはなかった。

曹操の思うこと…それだけが全ての答えであったのに。


「…元譲!」

大声で急かされて、思わず答えた。

「…だったら……、俺の…配下になってくれ!」

切羽詰った顔で言う夏侯惇に、言われた曹操は微笑んで、

「承知した」

はっきりと答えた。















 





次で最後

なぜ甘寧なのかというと、某M杉さんが、
山賊の甘寧に拾われる惇
というネタをくださったからヽ(=´▽`=)ノvv

私の中で甘寧はイイコ枠


あ、殿は全部わかった上でわざと負けてますから(*´∇`*)v
(淵と子孝たんにも説明済み〜v)




 

2011/04/17


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送