覚醒、っていう名前の本のif的おまけ


           忘帰



 
   
   













関羽の手が触れる。
不快といえば不快だが、もう慣れてしまった。
曹操の手とは違う。皮の厚いささくれたような指先が、頬を、首を、胸を這う。

愛撫などいらない。
初めのうちこそ拒もうとしたが、関羽がそれを許さなかった。
巨体を以って寝台に縫いとめられては、いかんともし難い。
それを無理に押し退けるほど嫌だというわけではなかったので、諦めて好きにさせた。

夏侯惇はずっと目を瞑っていた。
こういうとき、どうしても曹操のことを思い出してしまう。
意味のない罪悪感がある。
曹操は必要だから抱くのだと言った。
自分が関羽と何をしようが、それも必要だからするだけのことだ。
全て。

「・・・はっ、ぁ」

曹操の悪趣味は言うまでもないことだが、関羽も相当なものだと思う。
明らかに楽しんでいる。
夏侯惇が固く閉じていた目蓋をゆるゆると開き、定まらぬ視線を朧に放つ瞳を涙に浸すまで、愛撫は続く。
手首を押さえる力が強い。
それに文句を言う余裕は最早ない。


その手が離れて夏侯惇の輪郭をとらえた。
真上を向かされて、唇を合わされる。
それこそ”目的”のためには不要な行為に相違なかったが、苦しいほど激しく求めてくるその接吻の味を恋しいと思う身体は正直だ。


関羽は随分変わった。
遠慮はない。が、配慮には満ち満ちている。
今も、そう。
これをそう呼んでいいかと言えばわからないが・・・
自分を傷つけまいとする意思は感じる。
腰を高く持ち上げられ、その箇所に舌を這わされる。
初めてそうされた時は酷く狼狽したが、相手が関羽だと思えばうろたえるだけ馬鹿らしくなった。

「も、う・・・いいからっ・・・さっさと、終わらせ、ろ」

この行為が好きか嫌いかといわれれば、多分好きなのだと思う。
ぬめる舌に溶かされる感触は何にも例え難い。
力をうまく抜くことができない箇所を、やさしく根気強く諭され絆されるのが、いやに心地良い。
だからこそ長く続けられるのは我慢ができない。

「ぅ、ぁっ、あ」

夏侯惇の要請にこたえて、指が入ってきた。
涙に滲んだ視界には何も映りこんでこない。
ゆっくりと指を動かされるたび、更に追い上げられていく。
痛みなどあるわけはない。これを毎日繰り返している。
慣れれば慣れるほどに快感を掬いとるのが上手くなる身体を憎らしく思うが、これが身体というものだとも知っている。
指を締め付ける自分のそこは、明らかに変化してきているとわかる。

曹操が変えたのか。
それとも、この男が変えたのか。

どちらでも構わない。
どちらでも、同じことだ。

「夏侯惇・・・」
「ん・・・っ・・・」

荒い息を吐く唇を再度合わせ、関羽が指を増やした。
やや頑なな入り口を宥めるように行き来する指が熟れた内部をえぐる。律動は繰り返される。

欲しい。

関羽のことも、曹操のことも考えられない。
誰でもいい。相手の”オトコ”を欲して腕を伸ばしたときに、身体を持ち上げられた。
座り込む関羽の上に、位置を合わせながらゆっくりと下ろされる。

「ふ、・・ぁ、あぁ」

入り口に、それが入り込んでくる瞬間には、ぞわりと悪寒が体中を駆け巡る。
きつく眉根を寄せて耐える。
関羽にきつく縋りつくようにして、上半身を預けた。ひどく安定する。

「っ、ぁ、ぃやだ・・・ぁっ」

ぽろぽろと涙が流れ落ちる。
何が嫌なのだろう。ぶるぶると身体を震わすほどの悪寒は治まらない。
感じているのが苦しいのか、受け入れることがつらいのか。

涙を拭われると心臓がふわりと温まるようだった。

「嫌、だ・・・も、う・・・」

泣いていた。
関羽に全て預けたままで、頭をその肩に埋めて擦り付ける様に、泣いていた。

「・・・夏侯惇。・・・好きだ」

耳元に響く告白は、幾度も幾度も繰り返されて既に耳慣れたものだ。
関羽は馬鹿だからこんなことを言う。

「っ、黙れ・・・」

「・・・好きだ」

関羽はこの行為に目的以外の意味を見出している。

自分は・・・?

嫌だ。
何も考えたくない。

咎めるように関羽の背に爪を立てて、夏侯惇はまた涙を流した。














帰陣して、曹操に会って、告白を受けた。
愛していると言われた。
そして自分は、そう言って欲しかったのだと気付いた。
多分、曹操のことを愛し始めていたからだ。

けれど。

「関羽。・・・貴様、その顔はどうした」

次の戦もこの男と同行することになった。
ただし、今度は曹操も一緒だ。心配することは何もない。

今は、関羽と二人で向き合っている。
地形と作戦の確認の為に、図面を持って関羽の幕舎を訪れた。
その関羽の顔色が酷く良くない。

「体調でも崩したか?らしくないな」

顔を覗き込むと、関羽の目が暗く沈んでいることにも気がついた。

「・・・・・・・・・夏侯惇!」

「お、おい?!」

がばっと身体を抱き締められて、目を白黒させた。

「・・・諦めきれぬ」

「・・・?!」

息が苦しくて言葉が出せない。

「この唇も、・・・この、身体も。一度知ってしまったものを、忘れることなどできぬ」

「・・・・・」

「好きだ。何もかもが。・・・しかし、お主の全ては曹操殿のもの・・・」

「う・・・」

「言ってくれ、夏侯惇。
 貴様の顔など見たくないと。二度と触れてくれるなと。
 ・・・拙者は自分をもてあましている」

心臓が高鳴った。
関羽の体温。
勿論、覚えている。この力強い、強引な腕も。

「今一度、と。望んでしまう・・・。日々が苦しくてならぬ・・・」

「・・・・・・俺のせい、か・・・?」

言葉を搾り出せば、関羽が頷いた。

「・・・・・・」

沈黙の中、色々なことが頭を過ぎった。

自分が愛する男のこと。
自分を愛する男のこと。

 必要だから、身体を重ねる

今は、そんなことはどうでもよくなっていた。


黒髪のままの互いがこうも密着するのは初めてのことだ。
関羽も、自分を本当に欲するからこんなことを言うのだろう。
そう思えば哀れだ。

「・・・・・・一度」

「・・・一度?」

「一度。・・・一度なら、俺が許す。」

曹操は、許さないだろう。
今度は自分が曹操を苦しめる。
それでも、良い。そう思ってしまった。

「だがこれが最後だ、関羽。・・・終わったら、忘れろ」

 ――俺も忘れるから。

言い終わると同時に唇を塞がれた。
破る勢いで服を剥ぎ取られる。

関羽との交合は悪くない。

こんなに必死に与えられる、一途な想いというのも、悪くない。


抱かれている最中。夏侯惇はやはり泣いていた。
















「・・・関羽と寝た」

どうせばれるのはわかっているので、はっきりと宣言した。

「・・・は?」

「さっきな・・・関羽と、寝てきた」

「・・・・・・・・・・・」

ふらふらと立ち上がった曹操が、恐ろしい形相で夏侯惇を見上げた。

「何だと・・・?」

「すまん、孟徳。・・・俺は、あいつのことが好きなのかもしれん」

こんな言葉が自分から出てくるとは思わなかった。
関羽が噛み痕を付けた肩を衣服の上から撫でる。

曹操のことを愛しているとは、一度も口にしたことがなかった。

「・・・本気か、元譲」

「どうだろうな。俺にもよくわからん・・・」

曹操に引き倒されて、気がつくと天井を向いていた。

「わからぬか」

「・・・ああ」

「わしよりも、か・・・?」

「・・・・・・」

諾、と答えれば殺されそうな表情だ。

「・・・俺はな、孟徳。・・・お前のこと、好きだと思う」

「・・・・・・」

「大分前からお前のことを好きだった気がする」

本当のことだ。

だから、怒らせたかった。少し、苦しませたかった。

この苛烈な視線が自分に向けられていることを嬉しいと思う。
嫉妬、されている。

「お前も好きだ。・・・いや、お前が、一番好きだ」

「・・・関羽は、二番目か」

「そうだな・・・。あいつ、ヘタだったって言っただろ?・・・嘘だ。本当はすごく上手いぞ、関羽は・・・」

「・・・・・・だから”好き”なのか」

「それもあるが・・・あいつは、俺を好きだと何度も言うんだ。何度も」

「・・・・・・」

「お前は、俺以外でも構わないという男だ。わかっている。それで良いんだ。
 ・・・俺も、お前以外でも良い人間になりたかった。お前のことだけを考え続けるのに疲れてしまった」

「・・・・・・」

「関羽は、楽なんだよ。・・・・・・でも、もうあいつとは寝ない」

「なぜだ・・・?」

「お前を愛してるから」

「・・・元譲」

「・・・・・・ああ」

「わしはな・・・多く嘘を吐いてきた。・・・・・・今、それを後悔している」

「・・・そうか」

「・・・元譲以外の男と、一度たりとも同衾したことはない。一度もだぞ」

「何・・・?」

「・・・それでは理屈に合わぬと思っているのだろう?」

「だってお前、俺がいないときにどうやって・・・」

「・・・・・・・すまぬ、元譲。覚醒を解く為には誰かと交合する必要があると言ったのは・・・嘘だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「・・・・・元譲に焦がれていた・・・だから、そなたを騙して抱いた」

「だ、騙して・・・?だが、その、いつも・・・」

「理由はわからぬが、たまたま戻ることができていたのだな。・・・つまりな、元譲」

額を突き合わせて、夏侯惇の目を直近から見つめてくる。

「・・・そなた以外の男など、眼中にない。わしこそ、元譲のことばかりを考えていた。・・・ずっと。
 ・・・後ろめたい思いがあった故・・・今まで一度しか言ったことがなかったが・・・
 愛しているぞ、元譲。何度でも、何百回でも言わせてくれ。・・・許せ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・元譲?」


「〜〜〜〜〜〜〜許せるかっ、この、馬鹿孟徳ーーーーーーーっっ!!!」


涙目な夏侯惇の拳を受けて曹操が沈む。

これも正当な対価だ。
関羽との浮気だって、曹操がついた罪深すぎる嘘に比べたらなんということはない。

むしろ、これからも関羽との関係を引きずって、曹操のことを苦しめてやろうか・・・

そんな発想に自分自身で驚きつつ、夏侯惇の口元には仄かな笑みがともっていた。

























 





操惇本命の方、すみませんでした!!
いや、私も操惇本命ですけど!!

惇の浮気はいい浮気
それが惇総受け人間・・・ヽ(=´▽`=)ノ


 

2011/11/20


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