無意味





 
   





泣けばいいなんて言えない。

それは無責任すぎるだろう。


昔から、人の笑顔が好きだったな。


無邪気すぎたのだ、お前は。

殺戮とは何かなんて、本当は理解していなかったんだろう?

殺人と殺戮は違うのだ。
激情に任せて屠るのと、見知らぬ者をただ屠るのは、違うのだ。

震える手で口元をおさえて、目だけは上を向いている。

吐いてしまうか?

もしかすると、胃の中身と一緒に何か出てくるやもしれぬぞ。







ほら、お前はそんなだからこうも弱い。

初陣から少しも成長しておらぬ。

片目がなくなって、自分でその目を食らっても、まだ。

騎馬で歩兵を踏み潰した、その感触が。
突き出した刃に引っかかって、首が半分取れた顔が。


「・・・罰かな」
「そうかもな」

罰だと?
お前の罪が片目ごときで贖えるものだと思うのか。

甘い。

お前は殺したのだ。
何の罪もない人間を数多死に追いやった。

「いや、そう思いたいだけかもしれぬ・・・」

そうだろう。

お前は理由がほしいだけだ。

お前を理不尽にも見舞ったその不幸、それが何らかの報いであると信じれば、そこに意味も見出せような。

だが、それが甘いのだ。

「・・・意味なんて、初めから無い。
 俺が弱かった。そしてただ、運が悪かった。それだけなんだろ?」

「そんな風に言うものではないぞ」


そうだ。
意味なんてない。

死んだやつらも同じだ。
兵士として、民として死んだことに意味を探そうとしても、初めから意味なんてない。
人間として生まれてくることになんの意味もないのと、同じようにな。

ただ弱かった。運が悪かった。
罪深き者どもに、命を翻弄されただけだ。



「・・・もうわかったから、帰れよ」

「帰らぬ。そなたが眠ってからにする」

善人ぶって何になるというのだろうな、わしは。

所詮、わしも理由を探す愚者の一人よ。

お前の怪我に痛みを思うことに、意味を見つけようとしている。

無意味なのにな。

お前の眠った横顔を眺めて、ただあの瞬間を悔いて。

お前の左目を奪った罪だけがある。原因は確かにあるのに。

なぜだろうな、左目が無くなった理由は見つからない。


やはり、無意味だ。



「・・・だがな、元譲・・・
 殺すのが辛くなれば、逃げてもいいぞ・・・」


曹孟徳のため礎を築いただけなのだと、ただそう思えばいい。

理由だの何だのは、原因の中に消えてゆく。


後は全てわしの罪になる。

死ねば消えるか?

それとも、死んでから償うのか?

そんな先のことでは、今のわしに直接働きかけはせぬ。

やはり、どれもこれも無意味なことだ。

今のやるせなさを耐えるが為に、何かをするなどということは。




それでも。

お前の罪を負いたいなどとは。

わしは馬鹿だ。





 



 
拍手文でした。
惇兄には慰めの言葉しか言わないけど、実はぐるぐる考えすぎてる殿・・・みたいな。

2010年1月28日追加

 




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