蹌踉 6
女に対する審美眼はおかしくはない。
けれど、曹操は、自分の目は腐っていると思っていた。
だって、もう29歳になる従弟のことが、なんだか滅茶苦茶かわいく見えるのだ。
妖精か天使か、何かそういうものに見える。
病気かな、と自覚しているけれど、かわいいものは仕方がない。
そりゃあ他の従弟たちのことも漏れなく愛しいが、夏侯惇へのそれはずば抜けている。
といよりも、毛色が異なった。
他の従弟たちがかわいい弟どもであるのに対し、夏侯惇はかなりお転婆な愛娘といったところ。
これでは、本格的に病気だといわれても、返しようがない。
だから曹操は、自分自身に対するそのような不安を抱えて、数十年を生きてきた。
自分がおかしいと信じて疑わなかった。
つまり、あの日を以って、曹操は自分がおかしいのではないということに、気づかされたわけである。
その意味では、曹操の曇った眼を覚ませてくれた、信長には感謝せねばならないのかもしれない。
しかし、その先に待つのは、決して喜ばしい現実では有り得なかった。
夏侯惇を誰かにやるなどと、想像したこともない。
いや、想像だけして暗い気持ちになったことはある。
けれど、それが実現するとは思ってなかった。
意味のない覚悟だと思い込んでいた。
「父よ、いい加減シャキッとしてはもらえぬか」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・やはりあのようなことを言うのではなかった・・・」
「何を言ったのだ」
「信長に会いにいっても良いと・・・」
「ほう、許してやったのか。意外な」
「しかし実際に元譲があの男の許にいると思うと心配でいかぬ・・・」
「・・・・・・我が父ながら、情けない。
夏侯惇は小娘でもなんでもないのだぞ」
「わしにとっては娘もほぼ同然よ・・・」
「自業自得であろう。遠呂智に敗れた後、すぐに戻れば、夏侯惇が信長に会うこともなかった」
「わかっておるわ。わかっておるからこそ、許したのであろうが」
「では一体どうしたいと言うのだ」
「どうしたいというのでもない・・・。放っておけ・・・子桓・・・」
「・・・・・・・・・・・」
曹丕はそんな父を見て、未来に対する様々な危惧を抱かずにはいられない。
覇王vs魔王、お父さん苦悩編。
この後は再臨へ・・・。
無双2とOROCHIと5の殿はここまで病気だったらいいのにと思います。
2009年1月24日
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