遭逢



 










「夏侯惇、この目は如何した?」

信長の指が、夏侯惇の頬を滑る。

「これか?」

夏侯惇は、信長の過剰な接触にも慣れてしまっていた。

左目を指差して首を傾げると、信長は頷いた。

「大分前、戦で敵将の矢に射抜かれた」

「ほう・・・」

眉を顰めて、信長は夏侯惇の顔を覗き込んだ。

「そのときに矢を引き抜いてしまったから、今は空だ」

「引き抜いた?うぬがか?」

やさしい手つきで信長の手が、夏侯惇の顎を捉える。

「ああ。別に、目玉を食ってはいないがな」

夏侯惇は苦笑を浮かべた。

「・・・豪胆とは聞いたが、そこまでとはな」

「胆が細くて、武将なんぞできるものか。今も昔もな」

「冢中の男は、とんでもない犬を飼っておるようだ・・・」

クツクツと笑う信長に、夏侯惇は不機嫌になる。

「誰が犬だ。それに、冢中とか言うな。孟徳は、まだ生きている」

「主が訃報を聞いてもそれを信じず、頑なに、主を探して待ち続ける。
 これが、犬でなくて何だという?」

微笑を絶やさぬ信長に対して、夏侯惇は相変わらず憮然としている。

「うるさいな。俺には孟徳が生きているか否かくらいは、直感でわかるわ。
 あまり心配もしていない」

「確かに、余裕がある」

眼帯を掴んだ信長の手を、夏侯惇が掴む。

「俺は、自分の意思で孟徳を求めている。犬がただ主を求めるそれと、同列においてもらっては困る」

「なるほど。餌では別人にも靡かぬか」

「当たり前だ」

「覇道、という餌でも、か」

「別人の覇道になど、興味がない」

「興味がないのではなかろう?嫌悪しているというように見ゆるが」

「嫌悪か。確かに、貴様の覇道はそうだな」

不敵に笑う夏侯惇の指に、力が込められた。

眼帯を外そうとする信長の手を、夏侯惇は力ずくで剥がす。

「相当に、信長の器が気に入らぬようだ」

「気に入らんな。孟徳以外の器など、どれも不要だ」

「・・・少しは、亡者から目を逸らしてみるも必要、ぞ」

信長の指は、再び夏侯惇の顔の輪郭をなぞる。

「そうかもしれんな。だが、余人に孟徳以上の大器なぞ、望めるべくもない。
 俺は孟徳を知るから、そう言える。
 そして、貴様はヤツを知らん」

「フ、言いよる」

夏侯惇の顔を引き寄せ、自らも面を寄せて、尋ねる。

「では、信長は嫌いか?」

「何?」

目を細めて、にらむように信長を見る。

「器としての信長に非ず。人としての信長は、嫌いか?」

信長の瞳は、濡れたように光る黒。

夏侯惇は、その深みに、引き込まれそうな感覚に陥った。

「・・・意味のない質問には答えん」

夏侯惇の瞳は、薄い茶の中に、相手を射抜くような漆黒。

信長は、その強さと弱さが、ますます欲しくなった。


わかりあえぬ間柄にも、このような感情が生まれえるものなのか。


二人が同時に思ったとき、ゆっくりと顔が離れた。


「それは、惜しい・・・」

二人の間には、意味ありげな笑みが、月明かりの下、静かに交わされた。



















 




信惇です・・・。
シリアスな信惇も(パン)いいよね!(パン)と、いうことで。
信惇と羽惇をからませたくて仕方ないです。

 


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